国内携帯電話最大手NTTドコモの山田隆持社長は、2008年から3年以上も同じセリフを言い続けている。
「iPhoneをあきらめていない」
よほど悔しかったのだろう。3年前、彼はソフトバンクによるiPhone独占販売が決まるなどとは夢にも思っていなかったに違いない。私の周りの評論家の多くも、iPhoneはソフトバンクではなくドコモから発売されると分析していた。孫正義社長と故スティーブ・ジョブズ氏の蜜月関係を甘く見ていたわけではないが、日本のトップでも2位でもない、3位の携帯キャリアからiPhoneが発売されると想定していた専門家は少数派だった。
2007年から2008年はじめにかけて、ドコモの幹部はクパティーノにたびたび足を運び、iPhoneの発売に向けて準備を進めていた。しかし、Appleから事前連絡も無しに、突如ソフトバンクからiPhone発売が発表された。
山田氏は2008年6月に社長就任以来、定例会見や決算発表の席で「NDA(秘密保持契約)があって多くを話すことができないが、iPhone導入を諦めたわけではない」と、3年以上もオウムのように同じセリフを言い続けてきた。
チャンスは何度かあったはずだ。iPhone発売直後、日本国内の売れ行きはあまり芳しくなく、ソフトバンクの3Gネットワーク回線のパフォーマンスへのユーザの不満の高まりなどもあって、ドコモからの発売の噂は常につきまとっていた。
一方の孫正義社長は、初代iPhoneが発表されたMacworld Expo 2007の会場にも姿をみせるなど、トップ自ら導入の下準備を進めて大企業ドコモにベンチャー気質で華麗に挑んできた。
山田氏はダウ・ジョーンズ通信とのインタビューで、Appleが要求する販売目標やiモードメールやアプリ決済が利用できない点などが障害になっていると語っている。Appleが他国で排他的販売手法を廃止するなかにあっても、日本では1国1キャリアの時代が長く続いた。KDDIはこの秋、ようやくひとつの壁を乗り越えたが、ドコモもそこに続きたいのであれば、大企業の横綱相撲はクパティーノには通用しないことを知るべきだろう。ドコモの姿勢が同じであるかぎり、同社がiPhoneを取り扱うことは一生ありえない。通信パフォーマンスの安定性が抜群な会社からiPhoneのような先進的なデバイスが発売されないのは残念でならない。